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11月初めに、アメリカ・ユタ州にあるザイオン国立公園へ行ってきました。
観光シーズンの終わった公園は静かで、岩峰と赤い砂、紅葉の世界をまさに独り占め。
やわらかい秋の陽にあたりながらトレッキングし、アメリカンサイズの食事を楽しみ、
力強い太古の世界に想いを馳せた4日間でした。
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| あの上へ続くトレイルもある | バージン川上流 |
■ ロサンゼルス〜ハリケーン 7時間の旅 ■ 朝8:00、ロサンゼルスの友人宅を出発。車は友人が運転し、 ペーパードライバーとなって久しい私は、ナビゲーター。 7時間の長旅だ。 「ひどい渋滞でしょう?朝晩はみんなが動くから、いつもこんな感じ」 「ロスはもう充分大きいけど、内陸に向かってまだまだ広がり続けてるのよ」 友人はそんな話をしながらひょいひょいとトラックを抜かしていく。 ふとメーターを見ると、140kmをずっとキープしている。 トラクターだってもっと速いよ!と、かつて教習所の教官に呆れられた身としては、 そんなスピードで運転しながらおしゃべりできるのは驚異的だ。 だんだんとビルが減っていき、走り始めて1時間ほどで中心部を抜けた。 周りはもう、茶色く枯れた冬の芝のような原っぱだ。 焼畑をしたかのように所々黒くすすけているのは、10月の山火事の跡なのだそうだ。 一時は高速も閉鎖されたと言うように、道路の側面も黒くなっている。 カリフォルニア州からネバダに入るころには、見渡すかぎり赤砂の平原になった。 遠くに地層がはっきりと浮き出た岩群も見える。内陸部に移ってきたのを感じる。 見るからに乾燥した大地。 きっと夏には、蜃気楼で道路が揺れて見えるような暑さになるのだろう。 延々と荒野を走っては突然小さな町がポツンと現れる。 一瞬にして過ぎ去ると、また赤砂の平原だ。広い。ひたすら広い。 日が半分暮れかけたころ、ハリケーンに着いた。 建物は上ではなく横へ伸び、まばらに建っているので、町は実際の大きさよりも大きく感じる。 のどかな町だ。 カリフォルニア方面からの高速と、ユタ州内を走る高速がここで分かれるので、 小さな町ながらも定番のファーストフード店は一通り全てそろっている。 モーテルにチェックインした後、夕食を買いに出た。 ちょうど"サバイバー"の放送日で、友人が今までの展開を教えてくれた。しばしのテレビっ子となり、就寝。 |
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| スプリングテールの村 | 穏やかな眺め |
■ ザイオン国立公園 ■ ハリケーンから公園までは、30分ほどで着く。 公園に一番近い村、スプリングデールに入る頃には、道のかなりそばまで岩峰が迫ってくるようになった。 地層が何層にもわたってはっきり見える。 周りすべてが乾いた光景の中、赤い岩峰の足元には背の高い木が岩に寄り添うように生えている。 峡谷のすぐ下を流れるバージン川が育てたのだろう。 陽が透けて、木全体が明るい黄緑色になっている。風もなく、たおやかな眺めだ。 バージン川は、その昔にこの峡谷を創った頃のまま、今でもザイオン峡谷の真ん中を流れている。 公園になっているのは上流の部分で、川から両側の岩峰に向けてトレッキングトレイルがいくつも延びている。 多くのトレッキングルートの終点が沢登りのスタート地点になっているのもまた、 峡谷の歴史をさかのぼるようでおもしろい。 |
公園に着くと、まずエメラルド・プールという池まで軽くトレッキングすることにした。 このトレイルも、バージン川から始まる往復2時間ほどのゆるやかなコースだ。 素焼きの植木鉢のような色の道をてくてくと歩いていると、リスや鳥たちが時々道を横切る。 人も少なく、本当に静かだ。 エメラルド・プールは下の池、中の池、上の池、と上下3段に分かれている。 上に進むにつれて、砂岩ではなく硬くて巨大な岩がごろごろ出てくるようになり、 最後に大岩の間を抜けると、突き当たりに池があった。 今は乾期なのか、池は思っていたより小さかったが、足元の砂浜にも岩の上にも、 水が流れた跡が残っている。 時期が時期なら、かなり大きな池になるのだろう。 紅く染まったかえでが水面に映っていて、とてもきれいだ。 |
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| エメラルド・プール(上の池)の周りは大岩がゴロゴロしている |
帰り道、かたわらに生えているサボテンを眺めながらのんびり歩いていると、 園内に一軒だけあるロッジ、ザイオン・ロッジのそばの原っぱに、何かが動いているのが見えた。 黒っぽい胴体は、バスケットボールぐらいの大きさ。 そこからガチョウのような首が出ていて、しきりに草の中の何かをついばんでいる。 20羽ぐらいいるだろうか。どうやらターキー(七面鳥)のようだ。 ターキーが群れで行動するとは知らなかったが、にわとりも集団で暮らすのだから、 ターキーもそういう習性なのかも知れない。 体全体の大きさに比べて、胴体が丸々としているのが印象的だ。 牛や豚を見てもローストビーフやソーセージなんて想像しないのに、 ターキーの丸々とした胴体を見ると、どうしてもターキーサンドやローストターキーを連想してしまう。 お昼にターキーのラップサンドを食べたからだろうか。 人がこの地域を国立公園とし、 こうやって訪れるようになるずっと前からこの辺りに棲んでいたであろうこの住人たちは、 周りに人がいようが車が通り過ぎようが、一向に気にすることもなく平然とついばんでいる。 太古から変わらない時間が、そこには流れていた。 |
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翌朝、公園の中を車で走っていると、前の方に車が停まっていた。 首からカメラを下げた女性が車の脇に立っていて、夢中になって右の方を覗きこんでいる。 そばまで行くと、鹿を見ているのがわかった。 右側のゆるい斜面に鹿が2頭いて、角で突き合っている。 大きさからするともう大人の鹿だろう。 草食動物で、体長も車幅より少し短いぐらいだけれど、 カーンカーンとぶつかりあいながら斜面を転がり落ちてくるので、かなりの迫力がある。 車から降りて間近で見るには危ない感じだ。 いのししに突進されると大怪我すると聞いたことがあるが、 この鹿にぶつかられてもダメージが大きそうだ。 鹿は、先に斜面を転がってきた1頭が、そのまま先ほどの女性の車の下まで潜りこんで止まり、 慌てて起き上がるとそのまま走り去った。2頭目は後を追ってすぐいなくなった。 鹿という、普段はおとなしそうな草食動物の、野生の荒々しさを初めて目の前で見た。 |
この日は、まずウィーピング・ロックという岩を見に行き、 その後ヒドン・キャニオン・トレイルを歩くことにした。 長い年月をかけて岩にしみこんだ雨水が、 岩の層と層の間から外へ出てきたところがウィーピング・ロックと呼ばれていて、 ひさしのように出っ張った岩からぽたぽたと水がしたたっている。 滝の内側から滝を見るように、岩を背にして見てみた。 目の前にぽたぽたと水が落ちてくる。 それだけを見れば、普段、雨の日に傘からしたたる水を見ているような感じだけれど、 その昔、こうして岩からしみ出てきた水が沢となり、やがて川となって大地をけずり、 今日の峡谷を創ったかと思うと、何とも言えない不思議な気持ちになる。 太陽がうまい具合にしずくを照らせば、そばのぶどうの木やバージン川をバックに虹が見られそうだ。 それもまた穏やかな光景だろう。 |
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| ヒドン・キャニオンの紅葉 | ヒドン・キャニオンの マーブル模様 |
ヒドン・キャニオン・トレイルは、ウィーピング・ロックの近くから始まる。 往復3時間ほどのこのトレイルは、くさり場もあり、実際の標高差250m以上の高度感が楽しめる。 足元は真っ白な砂岩。その下にサンゴピンクや薄茶色の砂岩が層になっていて、 淡いマーブル模様のサンドアートの世界を歩いているようだ。 トレイルが大きく曲がるたび、バージン川がはるか下の方に見える。 色のコントラストを楽しんでいるうちに、ヒドン・キャニオンに着いた。 そこは、まさしく、"秘密の峡谷"だった。岩峰をひとつ登りきった奥にひっそりと横たわっているので、 下からも周囲の岩峰からもこの峡谷を見ることはできなそうだ。 あいにく水はほとんどなかったものの、所々に引っかかっている流木や、 水で洗われたようになめらかな岩肌が、今は涸れているだけ、でもここも峡谷、と語りかけてくる。 ここに水が流れるとき、峡谷の下へは滝となって流れ落ちるのだろう。神秘的な世界だ。 |
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| 夕日に染まる岩 | 岩峰名は「司教の宮殿」 |
今回ザイオンに滞在中、いつも気になっていたことがある。 ここに道も何もなく、ザイオンという名前が付けられる以前にこの場所にいた人々は、 何を思い、どんな生活をしていたのだろうか、ということと、 近代に入ってここを訪れ、ザイオンと名付けた人々は、 初めてこの峡谷を見たとき、何を感じただろうか、ということだ。 彼らは、この赤い砂でクレイポットを作り、 鹿を狩り、夜にはマウンテン・ライオンやふくろうの声を聞いていたかもしれない。 また、暖かい服や靴を身に着けてトレイルをたどった私が感じた以上の、 神々しさや自然への畏怖を感じていたかもしれない。 バージン川は、木や動物たちを育て、人々の暮らしを支えたことだろう。 そんなふうに、遠い昔へ想いを馳せられるのもまた、赤い峡谷の魅力だと思う。 (YFメンバー 宮里香奈子) |
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